代理人のルール(顕名・自己契約と双方代理の禁止)と代理権の消滅タイミング

代理制度の基本原則

土地や家を買いたいと思った時に、すぐに現地に行って交渉するなり買うなりできればいいのですが「忙しくて直接出向く暇がない」「遠方すぎていけない」こうした事態も現実にはあります。

そこで、自分の代わりとなる人を見つけて代理人になってもらうことで、自分が相手に対して直接の意思表示をしなくても契約を成立させれるわけです。これが代理制度と呼ばれるもので、代理人になってもらうことを代理権を与えるといいます。

代理の大原則は代理人の意思表示がそのまま本人に帰属する点です。つまり、直接的には代理人と相手のやりとりですが、それは代理権を与えた本人と相手のやりとりと考える必要があります。

ただし、代理人も然るべきことをしないと代理人として意味をなさないわけですから「やるべきこと」と「やってはいけないこと」が決められているのです。

やるべきこと

まず、代理人は必ず自分が誰の代理であるかを伝える必要があります。そうしないと相手が誰の代理かわかりませんし、そもそも代理人であることに気づかないからです。

代理であることを相手に伝える行為を顕名といい、これを怠った(顕名を欠いた)場合は、本人ではなく代理人自身が契約したことになります。

代理人としてやるべきことをやらなかったから仕方ないと考えるとわかりやすいと思います。

ただ、場合によっては相手方が誰の代理なのか知っているケース(悪意)もあります。あるいは交渉の過程で気づく(善意有過失)こともあるわけです。こうしたケースでは代理人が契約することに意味がないわけですから、原則にしたがって本人が契約したものとみなされます。

やってはいけないこと

代理人は本人に代わって契約を任されている立場のため、本人に迷惑がかかることはしてはいけません。具体的には、自己契約と双方代理の禁止が原則として定められています。


自己契約

自己契約とは代理人が自分を契約者とする行為のことです。たとえば「土地を売ってきて」と代理権を与えられたら、誰か買い手を探す必要があり、代理人が買うことは禁止されています。

禁止されている理由は、代理人の立場になるとわかりやすいです。

もしも代理人自らが買い手になることを許したら相手との契約まで自分ひとりで済ませてしまえるので、安く買いたたいたり土地を余分に手にしたりできてしまいます。ですから、代理人の自己契約は禁止されているのです。

しかし、損をする本人、つまり代理権を与えた人が許諾か追認をした場合は、例外として自己契約が認められます。ちなみに、許諾は事前承諾、追認は事後承諾という意味です。


双方代理

双方代理とは、契約当事者同士の代理人となることです。

「土地を売ってきて」という売り手と「買ってきて」という買い手の両方の代理人になるような場合が双方代理にあたり、原則禁止されています。禁止の背景は安くしたり高くしたりすると、どちらかに不利益がでてくるからです。

双方代理による契約は無効とみなされますが、当事者の両方が認めている場合に限り、例外的にOKとなります。ただし、事前に両者の許諾を得ておく必要があり、事後報告や片方だけの許諾だけではやはり無効です。


それと、代理権は与えられたけど具体的内容がないケースも多々あります。「俺の代わりをよろしく!」状態なわけですが、これを権限の定めがない代理人と呼びます。

権限の定めがない代理人は「保存行為」「利用行為」「改良行為」の3つが認められているのが特徴です。 3つの行為の具体的内容は覚えなくても大丈夫ですが「保存行為は割れた窓ガラスの修理」「利用行為は土地を貸して賃料を得る」「改良行為はタタミ替え」などが一例となります。

代理権の消滅

代理制度でもう一つ大切なのが代理権の消滅タイミングです。

そもそも代理には「お前に頼む」と本人から頼まれる「委任による代理」と法律上、代理権を与えられている「法定代理」があります。法定代理というのは親権者や未成年後見人、成年後見人などが該当します。

両方の代理に共通している消滅タイミングは、「本人の死亡」「代理人の死亡」「代理人の破産」「代理人が後見開始の審判を受けたとき」です。

委任による代理の場合は上記にくわえて「本人の破産」も代理権消滅の要因となります。法定代理権は本人の破産では消滅しない点が唯一の違いなので、そこだけ気を付けて覚えておきましょう。

その他おさえておきたい点

代理人が詐欺や強迫にあった場合

詐欺や強迫による取消権は代理人ではなく本人にあります。理由は代理人の意思表示は本人に帰属するからです。

問題文で「○○の代理人△△が詐欺に~」とあったら、〇〇が直接詐欺にあったと考えるとわかりやすくなります。


制限行為能力者でも代理人になれる

代理は本人が契約したも同然ですから、制限行為能力者が代理人として不利な契約をしても本人しか損しないわけです。ようするに制限行為能力者の保護は関係ないため、制限行為能力者でも代理人になれます。

しかも代理権を与えた本人は制限行為能力者の契約を主張して取り消すこともできません。

本人の保護がまったくされていないように感じますが、判断能力が十分に備わっていない制限行為能力者に代理権を与えたのは他ならぬ本人という理屈です。