遺言の範囲で覚えるべき内容(自筆証書遺言と公正証書遺言・遺留分)

遺言で覚えておきたいポイント

遺言とは自分が死んだあとに遺す言葉や文章のことですが、法律的には最後の意思表示と考えられています。これも時効相続のように日常的に使われる言葉とはいえ、法的な効力を発揮するためにはいくつかルールがあり、宅建でも学ぶ必要があります。

試験でまずポイントとなるのは、制限行為能力者でも要件を満たせば遺言できる点です。

・未成年者の場合・・・15歳になると遺言可能で、法定代理人の同意も不要

・成年被後見人・・・判断力が回復していて、かつ医師2人以上の立ち会いがあれば可能。成年後見人の同意も不要

・被保佐人・・・保佐人の同意不要で、自由にできる

それぞれの要件を覚えておけばひとまず問題ないですが、他にもポイントがあります。


試験対策に覚えておきたい遺言のポイント

遺言と聞くと残った人へのメッセージのように考えられますが、実際はまだ生まれていない子供にも残すことができます。これを「胎児への遺言」といい、内容が「お腹の赤ちゃんに遺産をあげる」といったものでも有効です。

また「死後のために遺言を残したけど、よくよく考えたら内容変えたいな」なんてこともあるかもしれません。ですから、遺言はいつでも自由な撤回が可能となっています。これは制限行為能力者かどうかは関係ありません。自由に撤回できるということは、言い換えると撤回権の放棄ができないという意味です。

撤回できることを知らずに、自分でわざと遺言書を破り捨てた(遺言書の破棄)場合も同様に撤回扱いとなります。

さらに、遺言というのは文書を残しておくだけでなく、口頭での約束でも成立します。「自分が死んだら残った家をあげる」と生前に約束しておくと遺言と同じ扱いになるのです。これを死因贈与といって、自由な撤回ができる点や撤回権の放棄ができない点は遺言と共通しています。

自筆証書遺言と公正証書遺言

遺言の範囲でさらに大切なのは遺言書です。遺言書には自筆証書遺言と公正証書遺言があり、どちらも法的効力は同じとなります。

自筆証書遺言とは自分で作ったもので、公正証書遺言は専門家に作ってもらったものです。余談ですが、行政書士などにお願いして遺言書を作る場合でも、アドバイスだけもらって自分で作ったら自筆証書遺言となります。

いずれにしろ法的効力が同じなので、どちらがいいというわけではありません。

ただ、遺言を一度残した後で違う内容の遺言をしたら、最初の遺言は撤回扱いとなり後の遺言が効力を発揮する点に注意です。この点も「公正証書遺言が先だから」「自筆証書遺言だから」などは関係なく、後から出された遺言が優先と覚えておきましょう。


自筆証書遺言と公正証書遺言のちがい

では、素朴な疑問として「効力が一緒ならどこが違うの?」と思うものですが、主な違いは2点あります。

1つは、作成における証人の有無で、自筆証書遺言の場合は一人で作っても問題ありません。逆に公正証書遺言は作成時に2人以上の証人が必要で、さらに証人に資格が求められます。

証人の資格は何が必要かを覚えるよりも「どういう人はなれないか?」と考えるほうがラクだと思います。証人になれないのは、未成年者と相続人や受遺者本人、あるいは近親者です。受遺者本人というのは遺言によって遺産を与えられる人で、近親者とは血縁関係の近い親族などのことを指します。

これらの人が公正証書遺言作成時の証人となれない理由は、未成年者は制限行為能力者で判断不足であること、相続人や受遺者本人、および近親者は遺言に利害関係があるからです。いずれもイメージでなんとなくわかるかと思います。

遺産をもらう本人やそれに近しい人が遺言書作成時に立ち会っても、自分に都合のいい遺言を残させるかもしれませんから、このような決まりがあるわけです。

自筆証書遺言と公正証書遺言のちがい2つ目は、裁判所による確認の有無です。

家庭裁判所は遺言者が亡くなった後に遺言書の存在を確認するのですが、この手続きを検認といいます。検認がなくても遺言書の効力が消えたりはしませんが、目的は偽造を防ぐことにあります。そのため、プロが作った公正証書遺言には検認不要なものの、自分で作成した自筆証書遺言には検認が必要となるわけです。

遺留分と遺留分減殺請求権

遺言は最後の意思表示として法的な力があるわけですから、被相続人が「遺産は全部どこかの貧しい子供たちに使って」と遺したら、遺族は何も相続できなくなってしまいます。これではいくらなんでも遺族がかわいそうですから、遺言でも侵害できない遺産として「遺留分」というものが存在します。

遺留分があることで遺族は最低限の遺産を相続可能となりますが、兄弟姉妹には遺留分はありません。あるのは直系卑属、直系尊属、配偶者だけです。

そして、遺留分の割合は直系尊属だけが相続人だと遺産の3分の1で、それ以外、たとえば配偶者と直系卑属が相続人の場合などは2分の1となります。


遺留分減殺請求権

もしも遺言に遺留分を侵害する内容が残っていても無効とはなりません。「遺留分も全部どこかの子供にあげます」と残っていたら、これは有効となるのです。しかし、遺留分を有する相続人は遺留分を取り返すことができ、この権利を遺留分減殺請求権と言います。

遺留分減殺請求権を行使する時に遺言書が公正証書遺言か自筆証書遺言かも関係ありませんが、遺留分の侵害は無効になるのではなく「有効だけど後で取り戻せる」という点は特に注意です。結果的に手に入る遺産が同じでも、解釈が違いますからここは勘違いしないようにしましょう。

遺留分減殺請求権は、訴えなどは必要なく意思表示だけでおこなえます。さらに相続人全員で権利の行使をする必要もなく、単独で行使可能です。要するに遺言に納得できなければ、一人ででも遺留分を取り戻せるということになっています。

取り戻せるなんて穏やかではないですが、気持ち的には貧しい子供たちに遺産を残してあげたいものですよね。(え?遺産ほしい?)

心優しい被相続人が何としても遺留分をなくしたい場合は、家庭裁判所の許可をもって各相続人に遺留分の放棄をさせることができます。当然ですが、これは被相続人が生きている間の話で、相続人が遺留分を放棄した後に被相続人が肝心の遺言をしないで亡くなると、たとえ放棄をしていても相続の原則にしたがって相続人が遺産を手にします。

なお、遺留分の放棄とちがって被相続人が生きている間に相続の放棄はできないので、微妙な違いも注意です。