制限行為能力者の取消権と法定代理人および保佐人の権限

制限行為能力者は契約を取り消せる!・・・が?

制限行為能力者が一人でおこなった契約は取り消し可能なのが大原則ですが、何でもかんでも取り消せてしまうとそれはそれで困りものです。

たとえば、未成年者である子供がお小遣いをもらって買い物に行く時まで「契約が~、取消権が~」なんて言うのもなんだかややこしいですし、未成年者と成年被後見人では判断力に大きな違いがあるので、なんでもかんでも制限行為能力者とくくって取り消せるとすると契約の相手方も困ります。

ですから、同じ制限行為能力者であっても未成年でも取り消せないパターンを決めたり、成年被後見人のほうをより保護しやすいようにしようと民法で例外が定められているのです。

また制限行為能力者を保護する法定代理人や保佐人には判断力が備わっているわけですが、何の権限も与えていないといざという時に制限行為能力者を守ってあげることができなくなります。

なので、保護者にも必要最低限の権限を持たせておくようにしているわけです。

各制限行為能力者の取り消しの例外と、保護者(法定代理人および保佐人)の権限についてみていきましょう。

未成年・成年被後見人・被保佐人の取り消しの例外

未成年者の場合

ただで物をもらったり借金をチャラにしてもらうのは未成年者にとっては得な話ですから、取り消すことはできません。無料で物をもらうことを「権利を得るだけの契約」、借金をチャラにしてもらうことを「義務を免れる契約」といい、いずれも法定代理人の同意が不要で未成年者が一人でやっても取り消せない契約となっています。

また、子供がもらったお小遣いの使い道について、法定代理人(主に親)から同意を得る必要はありません。「うちでは小遣いの使い道について申告させていて同意を求めている」なんて場合もあるかもしれませんが、民法上は未成年者がお小遣いを一人で処分してもそれによる契約は取り消せないことになっています。

なお、お小遣いのことを処分を許された財産といい、学資などもこれにあたります。

それと、未成年者とはいっても判断力が備わっている親が同意した上での契約なら文句は言えません。つまり、法定代理人の同意がある未成年者の契約も取り消すことができないわけです。


成年被後見人の場合

成年被後見人は病気なのどのために判断力が未成年者よりも弱いのですから、法定代理人が同意しても全然ちがう契約をしてしまうことだってあります。ですから、法定代理人の同意を得た契約でも取り消し可能となっています。

これは未成年者と大きく違う点で、たとえば借金をチャラにする場合(義務を免れる契約)でも取り消し可能になります。成年被後見人は「借金をチャラにする契約」と言われても、その意味すらも理解できないケースが多いからです。

もしも、一時的に判断力が回復したとしても後見開始の審判が取り消せない間は成年被後見人であることに変わりありません。ですから、判断力の回復の有無は関係なく契約を取り消すことができます。


被保佐人の場合

被保佐人は判断力が相当弱いとはいえ、未成年者よりも大人として考えられます。そのため、基本的には一人での契約は許されています。

しかし、重大な契約をする時には保佐人の同意を得る必要があり、同意なしの場合に限り契約の取り消しが可能です。

重大な契約というのは①土地の売買・5年超えの賃貸借 ②建物の売買・3年を超え賃貸借・増改築等の発注 ③高額商品の売買 ④保証人になることの4つを指します。

注意点は3年、5年超えという表現で、ピッタリ3年、ピッタリ5年だと重大な契約にあたらない点です。また、お菓子一つとかは高額商品の売買にはあたらないですから、取り消し不可能となります。

制限行為能力者の取消権の例外については以上ですが、これらとは別に契約の相手方の目線で制限行為能力者の取消権が消滅するケースもあります。

法定代理人および保佐人の権限

制限行為能力者が一人でおこなった契約内容を保護者が聞き「いやいや、それはまずい」という場合、保護者の立場からすると「取り消しを代わりにしてあげたい」と思うものです。そのため、本人だけでなく法定代理人にも取消権があたえられます。

逆に契約を聞いて「別にいいよ」と認めたい場合もあるかもしれません。この場合には法定代理人が追認することで契約当初から契約は有効だったことになり、この権利を追認権といいます。

法定代理人が追認すると、未成年者はもちろん、成年被後見人がおこなった契約も取り消し不可能になる点と、追認時ではなく契約当初から有効になる点に注意です。

他に、同意権(同意を与える権利)や代理権(本人の代わりに契約する)も法定代理人にあたえられた権限となります。

なお、保佐人の場合も法定代理人と同じく、取消権と追認権があたえられているので合わせて覚えておきましょう。