物権変動前の契約の成立と不動産物権変動の対抗要件およびその例外

権利は2種類に分けられる

宅建で学ぶ色々な権利は大きく物権と債権に分かれます。

物権とは所有権や抵当権、地上権といった物に対する権利ですが、実はこれらは法律で種類が決められています。物権法定主義といわれる考え方で、各々が勝手に新しい権利を生み出してしまうと訳がわからなくなるからです。

これに対して債権というのは請求をする権利を指します。借金などが債権にあたるもので、お金を貸した人が借りた人に「返して」と請求する権利なわけです。

債権は物権の場合と違い、当事者の意思によって勝手に作ってもいいことになっています。勝手につくるというと新しい造語が生まれそうですが「貸したお金を返してと請求する権利」は法律で決めるものではないと考えるとわかりやすいかと思います。

ようするに、権利そのものを自由に作るというよりは「当事者同士の契約を自由にしていいよ」というイメージです。そして、この考え方を契約自由の原則といいます。

物権変動とは、たとえば契約によって土地の所有権が移転する場合の権利の動きを指します。前置きの前置きが長くなりましたが、この分野を学習するにあたり、まずは物権変動が起こる前の契約の成立を法的に解釈しておく必要があります。

契約の成立

仲のいい友達とご飯をたべに行ったりコンビニでジュースを買ったりするときに、わざわざ契約書を作ったりはしません。「当たり前だろ」と怒られそうですが、こうした日常生活にありがちなことも全ては契約の成立となっているのです。

ジュースを買うならレジに持って行きますが、レジに持っていく行為は契約申し込みの意思表示であり「いくらになります」と店員さんから伝えられるのは、契約承諾の意思表示となります。そしてお金を払って「ありがとうございました」と言われると、ジュースはお店ではなく自分のものになるのは当然ですよね。

このよくある一連の流れの中で売買契約の成立と所有権の移転、つまり物権の変動が起こっているわけです。

この権利の移動は買う物の値段や動産、不動産は関係ありません。不動産とは家や土地のことで、それ以外が動産ですが、極端な話「家を売って」と口で伝えて「まいどあり」と言われれば契約は成立して所有権は移転するのです。

現実にあるかどうかは考えずに、そういう原則と思って考えてみてください。

要するに、契約の成立および物権の変動は意思表示で起こるのです。意思表示をするのに細かい条件は必要なく、電話でもいいですし契約書なども不要となります。家や土地などの高い買い物だったとしても、代金の支払いや登記といった条件はありません。

ところがこの原則に従って権利の移動を考えてみると、口約束だけで権利があちこち移動してしまい、いったい何が誰のものかわからなくなります。

そこで「これは自分の物だ」と主張するために、物権変動の対抗要件が存在するのです。

不動産物権変動の対抗要件

土地の所有権の取得など、不動産の物権変動は原則として登記をしていないと第三者に「自分の土地です」と主張できません。

一番簡単な例は二重譲渡で、ある人が2人に土地を売ったりした場合、買った順番ではなく登記を得ている方が土地の所有権を主張できるのです。

二重譲渡以外にも契約の取消や時効の成立後などのケースがあります。これらも登記を得ることが対抗要件となっています。しかし、結果だけを暗記してもあまり意味がありませんから、テキストでしっかりと理屈を学んでおくのが大切です。

対抗要件の例外

不動産物権変動の対抗要件の多くは登記があるならそれで問題ないケースは多いものの、世の中には自分の常識が通じないとんでもない人もいます。

とんでもない人と言うとアバウトですが「極悪な第三者」として定義されている人を指します。極悪な第三者というのは、たとえば勝手に自分の土地に家を建てている人や放火魔、いやがらせ目的で土地を買って登記した者などです。

他にも無権利者や詐欺や強迫で登記の邪魔をした人などが極悪な第三者に該当しますが、全部を覚えなくても「とんでもない人」といったイメージで理解できると思います。

重要なのは、こうした極悪な第三者には登記がなくても所有権を主張できる点です。登記の有無が大事といっても、いやがらせした人が登記をしていてはどうしようもないので、このような例外が定められています。

対抗要件としてさんざん登記が大事といっていますが、登記の内容は全て正しいわけではありません。実際の記録を見たことがある方はわかると思いますが、権利者や地目が正しくないケースは少なくないのです。

ということは、登記を全て信じて土地を購入しても当事者間の意思表示がないと所有権は移転しません。第三者が勝手に実印や権利書を使って登記の名義を変えても無効扱いですし、本来の所有権者への意思表示、および契約の成立がない登記では所有権を主張できないのです。

これを登記に公信力がないといいます。

不動産の物権変動の話で長くなりましたが、動産にも対抗要件はあります。これはものすごく単純に、引き渡し(ようするに持っているかどうか)で主張可能と覚えておくだけで十分です。